2008-08

「マルドゥック・スクランブル」 冲方丁


日本の映像産業に絶望した!

何がアレって「マルドゥック・スクランブル」ですよ。
めちゃめちゃおもしろいSFサイバーパンクですよ。

こんなに素晴らしい作品を映像化できてない日本のコンテンツ産業に絶望した!
アニメ化中止て。
もしそれが出来てたら業界に風穴を開けるくらいの大ヒット作になっていたはずなのに。
(制作会社のクオリティも問われるけど)
それだけ映像化する価値のある作品。

欲望が渦巻く街、マルドゥック市。少女娼婦ルーン=バロットは賭博師シェルの手にかかり危うく爆殺されかかったところを、委任事件担当官であるイースター博士とネズミ型万能兵器のウフコックに助けられる。全身に金属繊維による人工皮膚を移植され一命を取り留めた彼女は、手にした電子干渉能力を駆使して、ウフコックとイースター博士と共にシェルの犯罪を追究する。しかし彼らに立ちはだかるのはシェルが雇った事件屋ボイルド、彼はウフコックを濫用し彼を傷つけたかつてのパートナーだった…。

まずウフコックが可愛い。人語を解し、喋り、悩むネズミ。
彼の一挙手一投足に萌えるのがこの小説を楽しむ最大のポイントと言っても差し支えない。

宿敵ボイルドとの銃撃戦も素晴らしい出来。
細かな戦術、一瞬の判断、その場の緊迫感とカタルシスに酔いしれる。

あとがきで作者が「これを書き終わって出版するまでの間に、『スチュアート・リトル』と『マトリックス』が公開されて焦った」と言っていたのに笑った。
確かにもうちょっと早く世に出せていれば…と思います。

全三巻のうちほぼ一冊を使うくらいの長さのカジノでの攻防にも目が離せません。

wikipediaとかで調べたら作者の冲方さん、英語がネイティブレベルらしく、文体が粋です。
「煮え切らないウフコック」(ウフコックは仏語で半熟卵の意)とか、バロットのつぶやき(Dish, Wash, Clash, Gosh...)とかのセンスはネイティブ日本人にはなかなか真似できない。かっこいい。

こんなすごいエンターテインメントを読まされるとまだまだ日本の小説も十分世界と戦えるなと思わされます。

続編の「マルドゥック・ヴェロシティ」はまだ途中読み。
読了したらまたレビューします。

オススメ度(5段階評価)
★★★★★





テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

「煙か土か食い物」 舞城王太郎

この作家を取り上げるのは、ひょっとしてちょっとタイミング遅れなのかもしれません。
それでも彼の小説から感じたものをどうしてもアウトプットしたいという強い気持ちが。

彼を知ったのは本屋。良さげなミステリを探して店内をかれこれ小一時間ほどうろうろしていたところ、冒頭の1ページ読んで惚れました。
「本に首根っこ掴まれる」なんてことがあるとは思ってませんでした。


これを読んだ後、出版されている彼の作品を半数以上読んだけど、やはり最高傑作はメフィスト賞を受賞したデビュー作のこれだと思う。

わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる: このミステリーがスゴい!ベスト・オブ・ベスト20

ここでも述べられているように、これはミステリの皮を被った何か。

ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!


この煽り文句がその魅力を如実に表してる。
初期の舞城作品における特徴は、何よりもその文体と疾走感。
句読点が非常に少ない、改行も非常に少ない、だけど(だから?)どんどん読めてしまう。

疾走感故にそのストーリーはちょっと読者を置き去りに、だけどその脇の甘さが様々な解釈を許す、そんな小説に仕上がっていると思います。
文体でぶっ殺す、そんな才能を発掘できたことは文学にとってとても幸福なことだと僕は思う。

事件の捜査のため警察官僚の友人マリックと車で現場に向かうシーンと、救急救命士である主人公四郎の力が遺憾なく発揮される終盤、そして彼が不眠から立ち直るシーンが素晴らしい。

今は純文学を中心に活躍されているそうですが、まだまだエンターテインメント書いて欲しいなぁ。

おすすめ度(5段階評価)
★★★★★

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

「グランド・フィナーレ」 阿部和重

このページの写真がちょっとカッコよかったんで読んでみました。阿部和重。


第132回芥川賞受賞作。
解説で示されているとおり、まさに「ヘン」な小説である。
読み終わった後、脳味噌の片隅にもやもやしたかたまりが残る、そんな小説。
ストーリー小説ばかり読み慣れている僕としては新鮮な感覚が得られるものでした。

変な人。
変な服。
変な町。

変な○○と言うときに、その「変」が指すものは「普通ではない」ということだ。
この小説を読んで感じる「ヘン」は「変」とはちょっと違う。
なぜならこの小説の中で描かれているものはひとつひとつの要素や場面においてはまったく「普通」なのだ。
しかし一貫して読み通してみるとなんとも言えない「変」な感じがするから、それが「ヘンな小説」という評価につながっているのだ。

個別に見ると意味が成立しているものなのに、全体を見るとそうではない。
小説に一貫したストーリーやテーマを求めるのは一般的で常識的で多数派の「普通」の意見だと思う。
その「普通さ」に一石を投じているのがこの「グランド・フィナーレ」だ。

実を言うと、恥ずかしながら僕は小説家を目指していて、最近こんな本を読んだ。

「書きあぐねている人のための小説入門」 保坂和志

この中で保坂氏は「文学とは芸術であり、読み手の心に言葉では言い表せられないものを残すものだと思う。真の文学は既存の常識をぶち破るものだ」みたいなことを書いていた。
その意味で、「グランド・フィナーレ」はまさに「文学」、「文学」と言われる既成概念をぶち壊す力をもった作品だと思う。

内容について紹介するのはこの小説に限って野暮なのであえて書きませんが(気になる人はググって)、是非ともこれを読んで「ヘン」な感じを味わってみてください。

併録の「馬小屋の乙女」「新宿 ヨドバシカメラ」もまさに「ヘン」な感じ。すごい。

おすすめ度(五段階評価)
★★★★☆

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

「NHKにようこそ!」 滝本竜彦

練習を兼ねて初のエントリ。たまたま今日読んだ本。

(Amazonから引用)

ひきこもりの大ベテラン佐藤は気づいてしまった。人々をひきこもりの道へと誘惑する巨大組織の陰謀を!――といってどうすることもなく過ごす佐藤の前に現れた美少女・岬。彼女は天使なのか、それとも……。


エースに連載されてたマンガのほうは小説とは途中から展開が違って、ところどころ物語が破綻してたりするものの、原作者の試行錯誤が見て取れておもしろい。
てか小説と全然違う。展開も、結末も。正直、マンガのほうが内容的に濃いと思う。
まあそれは僕がマンガのほうを先に読んでたからなのかもしれませんが。

で、小説版「NHKにようこそ!」なんですが、「ノンストップひきこもりアクション小説」と銘打つだけあって、主人公の佐藤が動く動く。
ほんとは「ひきこもり」なんかじゃないんじゃないかというほど。

でも括弧つけて「ひきこもり」なんて書いてるけど、そんなに特別視すべきものなのか?という疑問が。
本当は「普通の人」と「ひきこもり」の境界線って実は結構薄いんじゃないかと思う。
佐藤が「ひきこもり」始めたきっかけも、些細な被害妄想なわけだし。

アパートの一室にひきこもる彼は「もう一生ひきこもりでいいや」なんて思ってるわけではなく、社会に復帰したいと思いながらもそれが出来ずに自虐に走り現実逃避する。
そんなネガティブ&自虐的&快楽志向的思考って気にしてないだけで誰にでもあるんじゃないかしら?

この小説のハイライトは、ロリコンに成り下がった佐藤が後輩の山崎を引き連れて小学生を盗撮、その盗撮している佐藤の姿を山崎に盗撮させて自分の醜さを自覚しようとするシーン。
ロリコンである自分の気持ち悪さを自覚しながらも、小学生に欲情しながら盗撮してしまう、このシーンのバカバカしさは、それでも本能と理性の葛藤を描いていておもしろい。
まあばっちりヒロインの岬に盗撮してるところを目撃されるわけですがw

正直、文章がやや稚拙で描写が不足しているところもあるけれど、この小説のおもしろさは「案外動けるひきこもり」佐藤のハチャメチャな行動によって、普遍的な自己との葛藤、その滑稽さ、そしてその先にある破滅的カタルシスを描いているところにあるんじゃないかと思います。
(ネタバレ防止のためわかりにくい文章で申し訳ない)

未見の方は、小説→マンガの順に読むといいんではないかと思います。
アニメは見てないのでわかりませんが。

おすすめ度(5段階評価)
★★★☆☆

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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はじめまして。
くまはらと申します。

このブログは、小説・マンガ好きで三度の飯より本が好きなわけではないけど飯も食うし本も読む私が、読んだものに対する感想、批評、批判、思いつきなどをアウトプットしておくために作りました。

「本を読む」という行為はそれだけでは自分の中で完結してしまうものなので、その読書体験を外に出すことで思考の整理、意見の醸成などができたりして、まぁなんと言うかいいことあるんじゃないかなと。

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基本的に新刊既刊にはこだわらず、「何か本を読んだら書く」という姿勢で更新していきたいと思います。

一日一冊とまでは行かないものの、二日に一冊くらいを目標に頑張っていきたいと思います。

好きな作家は、乙一、東野圭吾、重松清、町田康、舞城王太郎、など。
好きな漫画家は、小田扉、ひぐちアサ、冬目景、黒田硫黄、あと富樫。

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